疾患研究

昔は「悪性」

悪性貧血、なんていう怖い名前の疾患があるが、原因が判明して以来は別に悪性ではなくなった。

この病気はVB12、葉酸の欠乏によって赤血球の産生に必要なDNA合成が阻害されることによって生じる。赤血球は骨髄で増殖・分化のはてに、最後に脱核してから循環血中に姿を現すが、DNA合成がうまくいかないことによって細胞質の成熟の方が早くなり、結果的に血中の赤血球の大きさがやや大きくなる。

赤血球の平均容積をMCVと呼ぶが、この正常値はだいたい80-100 fLである。フェムトリットルなんて滅多に使わない単位だが、それゆえにMCVは覚えやすい。これが悪性貧血の場合、若干大きくなる。これは、大球性貧血と呼ばれる。

原疾患として、萎縮性胃炎のように壁細胞が損傷しているケースが多い。壁細胞は塩酸を分泌するほか、胃内因子というVB12と結合する糖タンパク質を分泌する。VB12は酸で破壊されやすいので、まず唾液中のハプトコリンと結合し、他の結合因子から奪う。そして胃内では胃内因子に置き換えられる。最終的に回腸終末部で胃内因子は分解され、VB12はそこで吸収される。胃内因子が吸収の限界を決めるので、わずか2 ugしか1日に吸収されない。

萎縮性胃炎では胃内因子への自己抗体が形成されており、この貧血をもたらしやすい。ほかには、胃全摘など胃が機能していない患者でみられる。

DNA合成がうまくいかなくなるという点からわかるように、悪性貧血は赤血球以外の白血球などにも影響は現れる。そのため、汎血球減少がみられ、VB12の発見までは致死的な疾患だったのだ。

それも今は昔、現在はVB12の注射などでその名称ほどの病気ではなくなった。

なお、貧血というと様々な疾患に起因しているのだが、ごくありふれているのは鉄欠乏性貧血であり、成人女性を中心によくみられる。こちらはヘモグロビンの合成がうまくいかなくなるため、赤血球の大きさが小さくなる。ヘモグロビンは赤血球の重量のおよそ30%ほどを占めるので、影響が如実にでるのだ。そのために、小球性貧血を示す。こちらは、鉄剤を投与することになる。

ただ、鉄欠乏性貧血となるころには、主に血清フェリチンが蓄えている鉄プールがほとんどなくなっている。プール量はおよそ1000 mgなので、貯蔵鉄レベルが十分に上がってくるのは時間を要する。

鉄はラジカル産生を促進するので、健康な人が鉄を過剰に供給されることはむしろ良くない。なので、サプリメントもあまり服用しすぎないほうがよい。肉食をしていれば、植物性の無機鉄ではなくてヘム鉄の状態で吸収できるので、吸収性が良くなっている。

金属の過剰摂取は日常生活では考えられないが、サプリについてはやや注意だろう。多くの金属は過剰摂取は有益ではない。軽金属である亜鉛はかなり安全であるが、摂り過ぎると銅やセレンの吸収を阻害する。そのため、亜鉛サプリには銅やセレンを一定の比率で含めるものだ。

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β細胞のふるまい

ちょっとよくわからないことがあるのだ。膵β細胞からのインスリン分泌には明確なbiphaseが存在する。これは遊離膵島を用いた実験でも、Isoglycemic clampの臨床試験でも示されている。

これは分子的にどうやって果たされているんだろう。Pedersenの論文を読んでもよくわからないのだ。

血中のグルコース濃度を定常に保ったときと、変動させた時に明らかなレスポンスの違いがあるが、これを分泌に反映させている分子的な機構がそもそもあるのかどうかわからない。ないんじゃないかとさえ思う。

なぜかといえば、定量的にはほとんどこのプロセスを理解できたと思っているからだ。しかしそれは、「分子的な実体として」β細胞に存在するのではなくて、あくまでも「挙動の仕方」としての存在のように思える。つまり、タンパク質の話ではなく、パターンの話。思考と同じかもしれない。反応の順番とか、あくまでも細胞を静的にとらえてもわからない話。そんな気がする。

基本的な分泌機構は、β細胞内のグルコース濃度増加をトリガーとするパターンと、インクレチン受容体によるcAMPの増加である。が、この分泌パターンはグルコース濃度増加のパターンと呼応しながら複雑なふるまいを示す。

これはβ細胞がそもそも用意している分泌用のインスリンストックのタイプの違いから生じているが、やっぱりこれは数学的なふるまいといわざるをえないように思える。

つまり、生命現象にはスナップショットでは考察しきれないものがあるということを、モデリングにおいては特に感じるということだ。つかめないものをつかもうとしているような研究というのは、なかなか苦しい。

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門脈カテーテル

門脈中濃度は肝による代謝を評価するためには非常に重要な部位のの濃度だが、ヒトにおいては直接測定できない。

門脈カテーテルは例えば門脈圧亢進症などの開腹手術時に、術中造影として行われる。これが肝静脈になると、femoral vein、大腿静脈からのカテーテル挿入によってサンプリングが可能である。

生理学研究においては、腎静脈や肝静脈、肺動脈のサンプリングと濃度測定がなされることがあり、今読んでいるのはインスリン関係の論文。しかしよくまぁ試験したものだと思う。医学生理学研究はこういうものの積み重ねでできているわけだ。

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in vivo で起こるのだろうか?

細菌の cell kill time course の研究において、Inoculum効果というものがある。

抗生物質の開発をするときに、MICを評価することは日常的に行われる。この時に、評価する菌体の濃度が高いと、MICも上昇するというものだ。これは、cell kill curve を評価するともっと露骨に確認することができる。あからさまに菌の kill rate が低下するのだ。

cell kill time course の研究は、抗菌剤のPKPDにおいて、MICより上ならいいんよ、という考えから、抗菌剤の濃度推移と菌体濃度のダイナミズムを解析する手がかりになるから重要であるのだけれど、このときに Inoculum 効果が in vivo でも起こるかどうかがよくわからないのだ。

ただ最近では、菌体濃度が高くなるような重度感染症では生じているのではないかという報告があるようだ。感染性心内膜炎とか、膿瘍形成がされている場合だ。

A型溶血性連鎖球菌、MRSA、MSSAのような菌では、このような現象がみられているのではないかと。ただ、生じないという意見もあるようで。

βラクタム系に対しては、βラクタマーゼの過剰産生が生じると考えられているが、まだわからないことも多いようだ。βラクタマーゼについては、基質特異性拡張型(ESBL)というものも最近あって関心が高い。臨床微生物学というものも、奥が深いものだなぁ。

P.S. Infectious Disease の勉強をしていて、たまたま思いついて書いただけで、ある事件がきっかけでこれを書いたのではない(゚ー゚)

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ジャーナルを読み読み

よく読むジャーナルとして、CPT、JPKPD、JCPやAAPS J はちょっと置いておいて。

糖尿病の研究をしているから、Diabetes、J Clin Endocrine Metabol、J Clinical Investigation、Am J Physiologyなんかを読むことが多い。

欧米は昔から、ヒトでの研究が進んでる。というかどうしてこんな研究できるんだろうというものが載ってることがあって、驚く。門脈中濃度、胆汁、循環血でインスリン測定するとか。貴重な知見だけどね。

それとか、100人以上の被験者で内因性物質を投与したときのPK評価しているとか。要はリッチデータ100人ということで。STS法で母集団パラメータを求めている。ちなみに健康成人。そして同様に数十人のT2DM患者でもまた実施。

確かに糖尿病の場合、脆弱被験者(vulnerable)ではないからけっこうやれるのだろうけど、生理学研究はすごいなぁと思う。

治験薬の場合は、人にとって有益かどうかがわからないが有害であることは確実な化学物質を評価するから、倫理的にはもちろん慎重に試験を計画する。だから治験と比較するのは間違いなのだけれど、医学生理学研究のあくなき実証精神には頭が下がる。

もちろん、その前段階でヒトでの結果を予測できるというか推測できるような動物実験がなされていることが多いから、ヒトにおける研究があてずっぽうに行われることはない。

が、確かに、ヒトのデータがないとあまり意味ないんだよなぁと思った。動物からこれこれになると予想されます、で終わったら、ヒトの体を理解したりひいては病を治療するなんていうことができるわけはないだろう。

モデリング研究も多い。Pharmacometrics が決して方法論が先駆的ではないということがわかる。が、たいていは混合効果モデルは用いられていない。

複雑なモデルもシンプルなモデルも両方あるが、Empirical であって予測性は乏しいんじゃないかというようなモデルが多い。そういう意味では、Template model の構築、Disease Model はこれからだという気がする。

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セミナー準備

3ヶ月後くらいだが、セミナーで発表をするので準備。タイトルはとりあえず決めた。好きなところを話すならば統計っぽい話なのだろうけど、自分の研究のためにもなるということで文献調査なども兼ねるとして、Diabetes。そして一応企業から来ているので、Drug Development。

調査は両方やらないとだめ。どちらかといえば Diabetes Modeling の話のほうがいい。インスリン分泌機構の生物学とモデルの対応をどうつけているかとか。

ということで、Journal of Cell Biologyで、分泌顆粒の画像についての論文を読む。

こんなものも平気で動画にできてしまうのだから、すごいと思う。Secretory Granulesは、β細胞の細胞膜の内側にくっついている、Docked というGranuleとそうでないGranuleがいて、前者は1st Phaseなる初期放出に関与しており、後者は2nd Phaseなる持続分泌に関与している。が、Non-docked granulesも、細胞外グルコースの濃度上昇に合わせて直接あるいは細胞膜内側への結合イベントを経て分泌される。

ここの結合タンパクも重要であって、ノックアウトすると1st Phaseはものすごく低下する。あたかも糖尿病病態であるかのようだ。

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領域の拡大

私はもともと、糖尿病をはじめとするMetSの臨床薬理を専門にしようとしていたし、自分のアイデンティティとしてもそうだ。糖尿病用薬の研究は学生のときまで遡るし、会社に入ってもそういうプロジェクトを多く担当してきた。

しかし、ここ2-3年、そうでもなくなってきた。MetSあるいは内分泌疾患、CVというような関連領域だけではなく、骨関節領域も自分の範疇とせざるを得ない。これはまぁ、会社の重点領域でもあるので自然な流れなのだが、自分と関わりの深い研究者たちが、Oncologyだったり、CNSだったり、感染症だったり、免疫抑制剤だったり、MSだったりをやってるわけだ。

そしてもちろん、PMxとしてはこれらの領域に多くの貢献をしなければならないし。

学ぶことは多いなぁと思いながら、もう諦めて勉強している。今日は一日の半分、がん領域についての調査だった。具体的には乳がん。

先月までは骨髄毒性とNSCLCの勉強だったから、ややずれたかな。

そう考えると、OPって自分はよく知ってるんだなぁと感じることも多くなってきた。

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NSCLC

非小細胞肺がんは肺がんの多くを占めている。小細胞肺がんが全肺がんの10%強であり、喫煙との相関性が強いことと比べると、非小細胞肺がんは肺がんの多くを占め喫煙との相関はあるが小細胞肺がんほど強くない。腺がんが55%、扁平上皮がんが25%程度である。前者は肺野に、後者は気管支に発生しやすい。

通常、薬物治療は3a,3b,4期の患者に用いられる。それよりも早期の場合は外科手術が標準治療である。薬物治療のファーストラインは白金製剤。セカンドラインはドセタキセルなど。サードラインで分子標的薬が用いられる。

などなど、簡単なところから現在勉強中。

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2型糖尿病の自然転帰

緩慢ではあるけれども膵β細胞の機能低下が起こってくる。これがまず膵機能の低下ありきなのか、抵抗性による負荷の増大なのかは、一度始まってしまうとにわとりが先か卵が先かの議論に過ぎず、どっちを主犯ともいえなくなってくる。相乗的に悪化するようなイメージもあるが進行は緩慢である。

β細胞の保護作用がある薬剤は待望されているといってもよい。PPARがあまり芳しくない結果になっており、糖尿病用薬の決め手はなかなか出てこない。SUやもっといえば強化インスリンは強制コントロールという意味がつよい。もっと病態の本質に切り込まないといけない。日本人の膵機能は欧米人と比べて弱いことは明らかだから、より一層β細胞保護作用は必要とされるだろう。

新しい薬剤の着想についてだけは、私の手にはあまる。こういうことを考えている研究者はいるが、私には具体化して発案することは難しい。

医薬品開発は、最初の一歩の意味合いが実は非常に大きい。その後もずっとずっと大切なのだが、運と科学の両方が等しく未来を決めるのはまずこのタイミングである。

もちろん、バトンを受け取るからには最大の成功確率を目指すのが Developer であろう。

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骨粗しょう症薬のPK/PDと硬い微分方程式

ビスフォスフォネートでのPK/PD研究が近年盛んに行なわれるようになっている。ビスフォスフォネート剤は半減期がさほど長いわけではなく1日でほぼ血中濃度は低下しきってしまう。動態的には経口BAは数%であり、かつ循環血中に移行した薬剤の半分程度は骨に組み込まれる。そこで骨吸収を抑制することで、Osteoporosisの進行を遅延させる。

最近の骨代謝の領域では、上のストーリーはいろいろと問題があることもわかってきている。

一つ、骨吸収を抑制すると骨が日常受けるMicro fractureを治癒させる力が弱くなる。損傷部分は必ず不整な形をつくり、骨の治癒過程においては損傷部位を一度溶かして骨形成を進める。その後、過形成部分を再吸収するという。骨吸収の単純な抑制はこのプロセスを邪魔してしまい、微小損傷が蓄積してある日骨折してしまうといわれてきている。確かに骨塩量を10%は増加させている割には骨折頻度は50%くらいしか下げない。

二つ、骨強度は単純に骨塩量に比例するわけではなく、構造的な問題がある。骨塩量を単純に増やすと、疎になりつつある類骨に硬い骨がのっかるわけであり、こういう構造は材料力学的には強度をかせげない。

こういう状況なのでBPの治療学的意義は、顎骨壊死などの安全性問題も含めてだんだん下がってきているようではある。一方で骨形成促進剤はなかなか開発しづらいから、BPはまだまだ開発されていて、PK/PD研究もされている。おそらくBP剤の開発ラッシュはこれから最後の山を迎えそうである。よって時代の流れも手伝って、PK/PD研究の報告にも勢いがみられる。

ところがこのBPというものは、血中濃度がhourの単位で減少するにも関わらず、骨代謝マーカーはweekの単位で変化し続ける。

こういうPK-PDモデルは解析が何かと難しい。いろいろな問題があるのだが、ある意味これは典型的なStiffな微分方程式の問題である。つまり硬い問題を解いているのだ。

「硬い」とはつながっているシステムの速度定数に大きな差があることを言う。硬い微分方程式の場合、どれかのSimulated Valueが大きく振動する波形を描くことがある。こうなると、解析はうまくいかなくなってしまう。このふるまいは系の中の速度定数の幅が、20倍くらいから系によっては現れる。単純には半減期が20倍以上異なる経路を持っている系ということだ。BPのPK/PDの場合、20倍なんてものではないから、PK/PDの同時モデリングなどはなかなか容易ではない。

硬い系の場合は計算量が増えてしまうという問題がある。NONMEMの場合、ADVAN 9が硬い系にむいているアルゴリズムであると解説されている。しかし私の経験では、ADVAN 6がうまくいかないときは 9 もそうだが 8 のほうが収束しやすかった覚えがある。

手元にある論文では、少し前のものだが800MHzのPentium III で計算したところ 5 日かかったらしい。これでは、PPK/PD解析は事実上無理だろう。今のPCは速いとはいえ、本質的な工夫が必要である。この研究者らは、PK部分を簡略化してPD解析に事実上落とし込んで計算速度をかせいでいる。収束まで 2 時間まで短縮できたとのことだ。

こんな難しさがあると、PK/PD論文にはしやすいのかもしれない。ただ、この論文での発想は意外と楽な発想である。私もBPのPK/PDを素直にモデリングしてみたときに、PK部分を置いておく意味が全くないことに気づいてPK部分を除去した。

重要なのはこれを開発推進まで落とし込むことだ。彼らはそれをなしえていることに意義がある。私たちもこうありたいと強く思う。

なお、BPのPK/PDにはいろいろと面白くかつ難しい側面があるのだが、これは別の機会にまたまとめておくことにしよう。

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