誕生 (中島みゆき)
中島みゆきの名曲である。
この誕生という歌の魅力は、この孤独な歌詞にある。中島みゆきはよくユーミンと比べられたのだが、歌曲の雰囲気は真逆である。ユーミンは、明るい世界の悲しさをうたい、中島みゆきは絶望の中の希望をうたう。二人はとても違うようにみえるが、一部のゾーンがかぶっていることもまた事実だ。
この誕生という歌。非常に難しい歌だ。
構成として、Aメロと呼べばいいのだろうか。前半部がそれだけで歌曲になるだけの完成度を持っている。Bメロとここで便宜上扱うのは、「Rememer...」から始まる、アレンジも歌い方もスケールの大きい部分だ。
この曲の印象は、木に竹をついだようなというのが第一印象だった。Aメロ部分は、きわめて個人的な、愛の歌である。それも悲恋の歌だ。
http://www.youtube.com/watch?v=DI6N803NC44
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一人でも私は生きられるけど、でも誰かとならば人生ははるかに違う。
強気で強気で生きてる人ほど些細な寂しさでつまずくものよ。
呼んでも呼んでも届かぬ恋でも、むなしい恋なんてあるはずがないと言ってよ。
待っても待っても戻らぬ恋でも、無駄な月日なんてないと言ってよ。
めぐりくる季節を数えながら、めぐりあう命を数えながら、恐れながら憎みながらいつか愛を知っていく。
泣きながら生まれる子供のように、もう一度生きるため、泣いてきたのね。
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歌い手は若くはない。こんなことは30代で歌えはしない。
待っても待っても戻らぬ、無駄な月日を知っている人であるからこそ、そんな月日なんてないと言ってほしいのだ。これは、20代や30代の人間のセンスでは断じてない。歌い手は、人生を共に歩く誰かをほしがっている。強気でそんな人はいらないといっても、寂寥を止められないのだ。愛することを恐れながら、そして実らぬ愛を恨みながら人生を生き、そうすること自体が生きていくことなのだ、というのがメッセージだ。
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振り返る暇もなく、時は流れて、帰りたい場所がまた一つずつ消えていく
すがりたい誰かを失うたびに、誰かを守りたい私になるの
わかれゆく季節を、数えながら、わかれゆく命を数えながら、
祈りながら、嘆きながら、とうに愛を知っている
忘れない言葉は誰でも一つ、たとえさよならでも愛してる意味
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2番になると、もっと視点が後ろになる。もっと歳月が経っている。歌い手は、得るよりも失うことのほうが多くなっている。季節が過ぎゆく中、いつしか会わなくなる人が増え、人生は出会うよりは別れることを意味するようになる。
何を祈っているのか? わかれないことだ。今わずかでもまわりにあるものを失わないことを祈る。歌い手はそれを守ろうと思っている。しかし、それは決してかなわないことであり、過ぎ行く季節の中で失っていき、それを歌い手は嘆く。
残るものは心の中だけである。心の中にある言葉、たとえそれが別れの言葉であったとしても、それは自分にとっては永遠に残る愛の言葉なのだ。
この歌の解釈は、私にとってはとても難しいし今でも自信がない。最後のフレーズ、「たとえさよならでも愛してる意味」は、恐ろしい日本語だ。
この1番2番のAメロは、人生のある側面を確実に切り取っていて、私はどうやったらこういう詩を思いつけるのか想像さえできなかった。
一方で、Bメロは、こういう人生の悲しみの起伏の中で、あなた自身が祝福された存在であるからそれを忘れるなと歌いかける。Bメロは何度もRememberと歌う。思い出せ、忘れるなという意味だ。Aメロが聴き方によっては私小説的な独白にも思えるのに対して、Bメロは相手に対する呼びかけである。
この対照性が、私にはどうしても違和感がある。が、Bメロなしでは歌としては暗すぎるのかもしれない。
Youtubeにはけっこうな数がアップされているが、試しに誰かのカバーか合唱版を聞いてみるといい。実は、中島みゆきが歌うとこの違和感はものすごいが、ほかの人が通して歌うと不思議にこのAメロとBメロは自然に聞きとおせてしまう。
つまり、彼女の歌い手としての力量と世界観を構築する力が、前半後半の対照性を際立たせてしまっているといえる。これに気づいたのはまだ最近のことだ。
私はこのAメロ部分が好きで、それだけでいいと思っている。
なぜか? この世界観に私は共感できるからだ。この孤独な世界観にだ。
よく聞いてみるとわかる。歌い手は孤独であり、人生を達観しており、もう若くない。人は孤独であることを十分に理解している。
が、それを受け入れている。そうすることによって、歌い手は孤独を克服しているのだ。
暗い世界の中に、自分の心で一筋の明かりをともすこと。そういう中島みゆきの世界が、十分にあらわされていると思うからだ。
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