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Dog Days

2006年の夏ごろの話だ。

「ハンズオンで教えてくれるところがある」

その人が私に言った。聞いてみると、レベル別に3コースあるのだという。その2年くらい前から、その人はNickが来ているそのカレッジに参加していた。私は資料やプログラムをもらったりしていた。

「ふうん、どれに行ったらいいかなぁ」

私たちはさすがに初心者ではなかった。いや、初心者ではないと思っていたというほうが正しい。振り返ってみると、私たちは全くの初心者だったのだが。

私たちは中級コースに行こうとまず決めた。勇んで申し込みをしようとしていた。しかしその人は社外にこの分野の友人がいて、情報を集めてきた。

「一番上に行こう」

その人にしては珍しく、強気な発言だった。

「え? 大丈夫かなぁ。上級だよきっとこれ」

「きっと大丈夫」

当日の日差しは半端ではなかった。初めていくキャンパスは遠く、私は道に迷った。賢いのは一つ手前の駅からタクシーに乗ることだ。

暑い中、必死の思いで会場に到着すると、たくさんの参加者が既に着席していた。盛況だなと思いながら、空いている席を見つけて座る。その人もやや離れたところに座っていた。誰もが知っている先生が開講の挨拶を行うと、私たちだけはすぐに別室に移動することになった。

それからの2日間は、もっともショッキングな2日間だった。まず、そのモデルを扱ったことはなかった。知ってはいたのだが、このソフトでやれるとは思っていなかった。教科書にヒントがちりばめられている。しかしそれを紡ぎ合わせて解析するところまで、まだ至らない。パラメータが原則、正であるPPKと異なり、このモデルでは正負いずれもとれる。そんなことさえ思いつくのに1時間くらいかかった。

家に帰っても演習は続く。私は翌朝の4時までPCを動かしていた。そして翌日、シミュレーションを行う。

午後のカリキュラムが進行して、私は恐るべきものを見た。同じ2日間でもありえないほどの解析量をこなす人が二人いた。スクリーンにはS-PLUS、SASのコードが映し出された。

私はありえないと思った。ハンマーで殴られたような衝撃だった。私は上級者などではなく、その入り口にも立てていない、ど素人だった。ファーマコメトリクスの世界は想像よりもはるかに広く、そして世の中にはほんとうに優秀な人がいるのだ。

「すごかった」

私たちは帰路、見たものを信じられないような気持ちを隠せぬまま歩いていた。夏の日差しはとっくにゆるやかになっていたが、頭はまだくらくらしているようであった。

「ありがたい」と私が言うと、その人は何のことか聞き返した。

「本物というのは、ああいうものなんだ。それを見たと思う」

その人は軽く笑った。

「想像の世界で何かを追いかけるより、ずっといい。追いつきたいと思った?」

来年もやるんだろうな。

考えながら、私はうなずいた。

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