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骨粗しょう症薬のPK/PDと硬い微分方程式

ビスフォスフォネートでのPK/PD研究が近年盛んに行なわれるようになっている。ビスフォスフォネート剤は半減期がさほど長いわけではなく1日でほぼ血中濃度は低下しきってしまう。動態的には経口BAは数%であり、かつ循環血中に移行した薬剤の半分程度は骨に組み込まれる。そこで骨吸収を抑制することで、Osteoporosisの進行を遅延させる。

最近の骨代謝の領域では、上のストーリーはいろいろと問題があることもわかってきている。

一つ、骨吸収を抑制すると骨が日常受けるMicro fractureを治癒させる力が弱くなる。損傷部分は必ず不整な形をつくり、骨の治癒過程においては損傷部位を一度溶かして骨形成を進める。その後、過形成部分を再吸収するという。骨吸収の単純な抑制はこのプロセスを邪魔してしまい、微小損傷が蓄積してある日骨折してしまうといわれてきている。確かに骨塩量を10%は増加させている割には骨折頻度は50%くらいしか下げない。

二つ、骨強度は単純に骨塩量に比例するわけではなく、構造的な問題がある。骨塩量を単純に増やすと、疎になりつつある類骨に硬い骨がのっかるわけであり、こういう構造は材料力学的には強度をかせげない。

こういう状況なのでBPの治療学的意義は、顎骨壊死などの安全性問題も含めてだんだん下がってきているようではある。一方で骨形成促進剤はなかなか開発しづらいから、BPはまだまだ開発されていて、PK/PD研究もされている。おそらくBP剤の開発ラッシュはこれから最後の山を迎えそうである。よって時代の流れも手伝って、PK/PD研究の報告にも勢いがみられる。

ところがこのBPというものは、血中濃度がhourの単位で減少するにも関わらず、骨代謝マーカーはweekの単位で変化し続ける。

こういうPK-PDモデルは解析が何かと難しい。いろいろな問題があるのだが、ある意味これは典型的なStiffな微分方程式の問題である。つまり硬い問題を解いているのだ。

「硬い」とはつながっているシステムの速度定数に大きな差があることを言う。硬い微分方程式の場合、どれかのSimulated Valueが大きく振動する波形を描くことがある。こうなると、解析はうまくいかなくなってしまう。このふるまいは系の中の速度定数の幅が、20倍くらいから系によっては現れる。単純には半減期が20倍以上異なる経路を持っている系ということだ。BPのPK/PDの場合、20倍なんてものではないから、PK/PDの同時モデリングなどはなかなか容易ではない。

硬い系の場合は計算量が増えてしまうという問題がある。NONMEMの場合、ADVAN 9が硬い系にむいているアルゴリズムであると解説されている。しかし私の経験では、ADVAN 6がうまくいかないときは 9 もそうだが 8 のほうが収束しやすかった覚えがある。

手元にある論文では、少し前のものだが800MHzのPentium III で計算したところ 5 日かかったらしい。これでは、PPK/PD解析は事実上無理だろう。今のPCは速いとはいえ、本質的な工夫が必要である。この研究者らは、PK部分を簡略化してPD解析に事実上落とし込んで計算速度をかせいでいる。収束まで 2 時間まで短縮できたとのことだ。

こんな難しさがあると、PK/PD論文にはしやすいのかもしれない。ただ、この論文での発想は意外と楽な発想である。私もBPのPK/PDを素直にモデリングしてみたときに、PK部分を置いておく意味が全くないことに気づいてPK部分を除去した。

重要なのはこれを開発推進まで落とし込むことだ。彼らはそれをなしえていることに意義がある。私たちもこうありたいと強く思う。

なお、BPのPK/PDにはいろいろと面白くかつ難しい側面があるのだが、これは別の機会にまたまとめておくことにしよう。

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